寄生虫の駆虫薬が糖尿病に効く

寄生虫の駆虫薬が糖尿病に効く(Nature Medicine:nature.com)
2型糖尿病(T2D)は、生活習慣や食生活の変化により、世界的な流行レベルに達してきました。糖尿病において現在のほとんどの治療手法は、疾患の高血糖症状を改善するものが多数で、その根本的な原因を修正するには有効でなく、完治しない病気といわれています。
発表された論文は:「ニクロサミドエタノールアミン塩(Niclosamide-ethanolamine)によって誘導されるミトコンドリアのアンカプリング(脱共役)によりマウスの糖尿病症状が改善する」
-Niclosamide ethanolamine-induced mild mitochondrial uncoupling improves diabetic symptoms in mice.-

2型糖尿病(T2D)の一つの重要な原因因子は、肝臓や筋肉などの代謝的に敏感な器官における脂質の異所性蓄積「細胞内肥満」です。内臓脂肪組織は細胞数を増やし、またそのサイズを肥大化させることにより脂肪の蓄積に対応します。このとき脂肪細胞は形質転換を起こし、悪玉アディポサイトカインを放出する一方で、肝臓や骨格筋でのインスリン抵抗性を調節するレプチンやアディポネクチンの分泌は抑制されます。そして、内臓脂肪蓄積が一定量に達すると、内臓脂肪として蓄積しきれなかったエネルギーは肝臓や骨格筋、膵臓など、本来脂肪が蓄積する部位ではない場所に蓄積します。肝臓に脂肪が蓄積した状態が脂肪肝、骨格筋へ脂肪が蓄積したものは脂肪筋と呼ばれてます。

細胞のエネルギー効率を低下させ、脂質酸化を増加させるミトコンドリアのアンカプリング(脱共役:エネルギーの元ATPを作らずにブドウ糖や脂肪酸を燃やしてしまう)は、魅力的な治療戦略です。今回の報告では、実用化に向けた安全なミトコンドリア脱共役・薬剤を発見したということである。食物という高分子の化合物を分解する過程で、エンジンを空ふかしするように、食物を分解しても酸化的リン酸化の過程が脱共役して、ATPを合成しなければ、自由エネルギーは熱として発散してしまいます。この過程で発生する熱が体温を上昇させることが問題でもあるのですが、ニクロサミドエタノールアミン塩では、この件もクリアできているようです。

ニクロサミドエタノールアミン塩は、米国食品医薬品局によって既に承認されている駆虫薬です。この論文では

「ニクロサミドエタノールアミン塩は、上位ナノモル濃度で、哺乳動物のミトコンドリアを脱共役することを示している。経口投与されたニクロサミドエタノールアミン塩は、マウスのエネルギー消費及び脂質代謝を増加させる。また、予防および高脂肪食によって誘導される肝脂肪症およびインスリン抵抗性を治療するのに有効である。また、db / dbマウスにおける血糖コントロールや発症を遅らせ疾患の進行を改善する。 NENの十分に立証された安全性プロフィールを考えると、私たちの研究は、2型糖尿病(T2D)の治療のための潜在的に新く実用的な薬理学的アプローチを提供します。」http://www.nature.com/nm/journal/vaop/ncurrent/full/nm.3699.html#references

とあります。細胞レベルで糖代謝を改善してしまおうということでしょうか。脱共役にはフリーラジカルの生成を制御するという役目もあり、フリーラジカルの悪さを防止するという余禄も期待できるかもしれません。脂肪肝の治療にも効果がある可能性もあり、既に認可され、安全性も確かめられている薬剤であることから即戦力のスーパー治療薬として期待できますね。

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