歯周病で糖尿病悪化

歯周病で糖尿病悪化
出典:徳島大大学院
ヘルスバイオサイエンス研究部 永田俊彦教授
糖尿病患者さんは歯周病になりやすく、重症化しやすいことがかなり昔から知られていましたが、最近は、分子レベルでなぜそうなるかが徐々に分かってきました。

糖尿病患者さんに見られる歯周病の特徴は、著しい歯肉炎症や歯槽骨破壊、あちこちの歯茎が腫れる多発性膿瘍のうようなどがあります。

米国には、ピマインディアンという糖尿病の家系を持つ一集団があり、研究が進んでいます。それによると、2型糖尿病では、普通の人より2・6倍、歯周病にかかりやすく、重症化しやすいことが分かっています。一般的に、歯周病は免疫機能が落ちた時にかかりやすくなったり、悪化しやすくなったりします。糖尿病患者さんは免疫機能が非常に低下していることも、重症化の原因の一つです。

2点目は、糖尿病になると、網膜症、腎症、神経症などの合併症を起こしますが、特に腎症に関連して調査研究を行ったことがあります。腎症では腎不全になり、人工透析が必要になります。日本透析医学会のデータによると、現在、日本には約30万人の透析患者がおり、半数近くは糖尿病性腎症が原因です。糖尿病性腎症で人工透析を受けている患者さんの口腔内を調べると、歯槽骨の破壊が激しく、失った歯の数が著しく多かったという結果が得られました。糖尿病性腎症で、歯周病がさらに悪化することが分かったわけです。

3点目は、歯周病と糖尿病には双方向の関係があり、歯周病の存在が糖尿病を悪化させることが最近の研究で明らかになったことです。歯周病を長期間抱えると、歯茎から炎症物質あるいは歯周病菌そのものが血管を介して全身に飛び火して、歯周病が全身の軽微な持続的炎症の一因となるのです。

歯周ポケットは歯と歯茎の境目に形成されます。ポケットが5ミリほどあると、そこに歯垢しこうが蓄積し、歯周病菌の絶好の繁殖場所になります。28本の歯の周囲全体に5ミリのポケットがあると、その表面積は72平方センチであり、成人の手のひらの大きさに相当します。これだけの面積がポケット内面の組織に接触すれば、病原因子が全身に飛び火するということもうなずけると思います。

歯周病の病原菌(グラム陰性菌)が全身に

歯と歯茎の間にある歯周ポケットから血流の多い場所に病原菌が感染巣を作る。すると、血液を介して全身に飛び火します。歯周病菌そのものや、歯周病菌の細胞の成分(リポ多糖)、ほかにはサイトカインと呼ばれる炎症物質などです。

こうした因子が、筋肉や肝臓の細胞に対し、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」を増加させます。例えば、炎症反応によりTNF-α(アルファ)という物質が、歯周局所のマクロファージ(体を守る免疫細胞)で作られ血液中に入り込む。TNF-αは血液中の糖分の取り込みを妨げる働きがあるので、血糖値を下げるインスリンの作用をブロックしてしまいます。これは糖尿病の悪化そのものです。

 黒瀬部長は「糖尿病は、血糖値をコントロールするインスリンの分泌あるいは作用が不足しているために、血糖値の高い状態が続く病気です。歯周病があると血糖値のコントロールが不十分になり、血糖値が上がる。血糖値が上がると免疫機能が低下する。免疫機能が低下すると、さらにグラム陰性菌が増殖し歯周病が悪化します。歯周病を放置すると糖尿病が悪化する悪循環が作られる

海外の研究でも、重度の歯周炎を持つ人は、健康な人よりも血糖値の上昇が著しく、歯周病の炎症がインスリン抵抗性を上昇させるといった結果が既に報告されています。

我々が経験した66歳の女性患者さんは、糖尿病、高血圧、高脂血症、乳がんなど多数の持病があり、重度の歯周病も抱えていました。入れ歯で抜歯や歯石除去などの歯周ポケットを減らす治療を行うと、血糖値の指標となるヘモグロビンA1cが6・5から5・4へと、劇的に下がりました。治療後も口腔ケアを続け、血糖値も正常範囲にコントロールされています。

糖尿病に焦点を当てましたが、歯周病の影響は、肺炎や心臓病、リウマチなどにも非常に関係が深いと言われています。妊婦の方に歯周病があると、低体重出産や早産が起こるといった報告もあり、全身と歯周病の関係は、世界中の多くの文献で取り上げられています。以上のように、口の健康だけでなく全身の健康を維持するために口腔ケアはとても大切」とのこと。

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